「すべてはあとの祭り」
(アスキー 94年 「LOGOUT特別編集 火浦功伝説」 940719執筆 より)
私は火浦功の担当でした。
でも、今は違います。
会社も変わりました。
編集者も辞めました。
それはこんなことがあったからです。
「いやあ火浦先生、みごと復活しましたね」
「何が?」
「何がって、ガルディーンですよ。未来放浪ガルディーン」
「あ、そう」
「忘れちゃったんですか?」
「忘れた」
「…………」
「で?」
「ですから、ガルディーンがね、『ザ・スニーカー』創刊号で復活したでしょ!」
「ふーん」
「『ベリアルの日曜日』って外伝を書いたでしょ!」
「ああ、出渕裕のイラストの」
「そうです、そうそう」
「やたらサイズのでかい」
「それは誰のせいだと思ってるんですか!」
「誰?」
「…………」
「で?」
「ですから、次も書いてもらいたいと」
「何を?」
「…………」
「ガルディーンでしょ」
「わかってるんじゃないですか!」
「あたりまえでしょ。作者なんだから」
「じゃ、よろしくお願いしますよ」
「大丈夫、大丈夫。中華航空に乗ったつもりで」
「うわーっ、シャレにならないですよ!」
「まあ、人生いたるとこに山あり谷啓だから」
「ガチョーン」
「なかなかやるねえ」
「つられちゃったじゃないですか。ほんとによろしく頼みますよ」
「ふわーい」
そして一週間後。
「書けました?」
「何が?」
「光文社の書き下ろしですよ」
「ガルディーンでしょ」
「わかってるくせに。できてなくても驚きませんよ」
「できたよ、400枚」
「うわーっ」
「できてると驚くんだね、嘘ついた甲斐があった」
「まったく。で、どんな感じですか?」
「ぜんぜん」
「締め切り明日ですよ!」
「大丈夫、大丈夫。マクラーレンに乗ったつもりで」
「大丈夫じゃないでしょうが!」
そして締め切り前夜。
「もしもし」
「ベンチでささやくおふたりさん」
「合言葉やってるんじゃないんですよ」
「なあに?」
「原稿ください!」
「いまファックスで送るよ」
「何枚になりました」
「52枚」
「やったじゃないですか!」
「ジョーカーは入れてないよ」
「トランプファックスしてどうするんですか、もう! できたんですか?」
「えーとね、なんて言ったらいいかな」
「できてないと」
「そんなワビサビのない言いかたは嫌い」
「言いかたの問題じゃないでしょう」
「大丈夫、大丈夫。今日は何に乗ったつもりがいい?」
「何にも乗りたくないです! あしたの朝イチにあがってないとおちますよ」
「わかってるよ〜ん」
ついに締め切り寸前。
「もしもし」
「し、し、し……芝公園」
「ん、がついたから負け!」
「け、け、け……ケサランパサラン!」
「続けてどうするんですか! そのうえ負けです!」
「どんなお話がいい?」
「コロナとシャラが戦っているのを、ガルディーンが止めにはいる話」
「具体的だなあ」
「イラスト見てしゃべってますから」
「そんじゃ、それ書くか」
「あと1時間ですよ!」
「いま何時?」
「6時です」
「そうかそうか、もう羽田に行かにゃならんな」
「はあ?」
「言ってなかったっけ? スキーの話」
「聞いてないです!」
「わるいわるい、じゃそういうことで」
「ちょ、ちょっと!」
最近はおてんとうさんとともに目覚め、庭の草木を愛で、お月さんとともに床に就く生活になりました。
人の心の優しさと、人を愛することの素晴らしさを知りました。
最後に北海道から届いた火浦さんのファックスをご紹介します。
高柳へ、そのうち何とかなるだろう 火浦功