メディアの将来――ラジオ
ラジオは嘘やニセモノが通じない時代を歓迎します!
宣伝会議 月刊「宣伝会議」 03年9月号(7月26日発売)
ラジオ局の人間は、良くこういう愚痴をこぼします。
「ラジオの本当の媒体力が評価されていない」
「クライアントやスポンサーがラジオを理解していない」
「ラジオに不利な調査結果がまかり通っている」
こんなネガティブな考え方が、ますますラジオのイメージを悪くしていることに気がついていません。
ラジオにたずさわる人間は全員、まずラジオの悪いところを認めましょう。そして、同時に良いところもきちんと知りましょう。
"素顔"のままでも、ラジオは相当に魅力のある存在です。
実はそれを一番わかっていないのは、我々ラジオ局の人間なのかもしれません。
■ラジオが誇れる信頼性
例えばデパートにとっての「お得意様」とは、たくさん買い物をしていただける方という誰にでもわかる基準があるのですが、ラジオの場合には、わかりやすい物差しがありません。
番組にいつもハガキや電話を下さる方、ラジオショッピングでたくさんの買い物をされる方、公開放送などに年中顔を出す方・・・ニッポン放送では感謝の気持ちを込めて「ロイヤルリスナー」と呼んでいます。
ラジオは、このロイヤルリスナーに支えられているのです。
彼らがいかにラジオに、番組に、パーソナリティに信頼感を抱いているかは、ラジオショッピングの返品率がテレビショッピングの半分というデータにも現われています。
商品の魅力もさることながら、「ロイヤルリスナー」は、その商品を勧めるパーソナリティを信頼しているから購入するのです。
まさにこの信頼性が、ラジオというメディアが誇れる長所なのです。
■リスナーとの"絆"でブランド戦略
日経BPコンサルティングが実施した「ブランド・ジャパン2003」では、「共感する、フィーリングが合う」ブランドの第10位にニッポン放送がランクインしました。
信頼性だけでなく、親近感もラジオの長所です。
この2つを活用すれば、売上の向上だけでなくブランドのイメージアップが実現できることは、2002年春のセミナー「ニッポン放送・博報堂共同研究プロジェクト――"リスナーとの絆"がブランドにキク」でも紹介しました。
信頼できる、親近感があるラジオパーソナリティが勧めるものは、家族や親友の「これは良いよ」「こっちにしなさい」というアドバイスと同じで、安心して受け入れることができる情報なのです。
このように、マーケティングコミュニケーション戦略においても、ラジオは極めて有効なツールと言えます。
■コラボレートパブリシティ企画の実現
ニッポン放送で現在放送中の「知ってる?24時。」(月〜木 24時〜25時)では、まったく新しいパブリシティ戦略に挑戦し、成果を上げています。
提供時間帯にCMを流すだけというオーソドックスな提供パターンをやめ、番組そのものを「サポーター」として応援していただけるクライアントを募り、パーソナリティ、リスナーと一体となって、宣伝や商品開発そのものを番組にしてしまうという、斬新な宣伝スタイルを実現させました。
この3者がお互いを理解し合い、信頼し合わないと成り立たない、ある意味では非常にバランスの難しい企画なのですが、おかげさまで好評を博しています。
クライアントから提供料金をいただき、番組はリスナーに向けて放送するという、通常の商売ではありえない"三角関係"を、まさに逆手に取った手法で、これもラジオが持つ信頼性、親近感を上手に活用した例と言えるでしょう。
■さて、10年後にラジオは・・・
今年の10月10日に、東京と大阪において、地上波デジタルラジオの実用化試験放送がスタートします。
ニッポン放送はエフエム東京と一緒に、3セグメントという広い帯域を使い、様々なサービスに挑戦します。
ラジオが音声だけでなく、簡易動画やデータなど、リッチなコンテンツも送れるツールになります。
しかし、この帯域をいっぱいに使い、映像をはじめとした番組に付随するありとあらゆるデータを取り揃えることが、必ずしもリスナーに歓迎されるとは思っていません。
むしろ、映像やデータは、ながら聴取のリスナーを戸惑わせることになりますし、イマジネーションの邪魔になるかもしれません。
では、一体何を送れば良いのか?
開き直るわけではありませんが、リスナーがデジタルラジオというツールに何を求めているかに真摯に耳を傾けて、それを少しずつ形にしていけば良いのではないかと思っています。
ラジオにとって最も大切なのは、パーソナリティとリスナーとクライアントとが、10年先までも、さらにそれ以上先も、信頼性と親近感をお互いに保ち続けることです。
そして、それを失うことがなければ・・・ラジオは永遠に不滅でしょう。