帰ってきた土曜日の実験室1
「駅伝の怪」

(角川書店「ザ・スニーカー」96年2月号 951214執筆)

”駅伝”って変だと思いませんか?
まず、音感が変!
古今東西「でん」の付くものといえば、「おでん」、「デンスケ」、「でんでん太鼓」、「屯田兵」……とまあ、よくもこれだけ豪華メンバーにお集まりいただいて、と恐縮してしまうくらい、マヌケのオンパレードです。
まあ、これはあくまで掴みのネタですから、軽く笑っていただくとして、中継を見ていれば見ているほど、いろいろ気になってしまうことばかりです。
まずは、先導する白バイ。
この白バイの運転をおおせつかるのが、白バイ隊員の最高の名誉だそうですが、市民の安全のために悪と戦う白バイ隊員ともあろう人が、そんな”みみっちい”ことを目標にしちゃっていいのでしょうか?
ふらつかないで、一定のスピードで走り続けるんだったら、わざわざ熟練した白バイ隊員を選抜するよりも、三輪スクーターの方が安全で確実です。
さらに電動スクーターだったりすると、エコロジーもアピール出来て一石二鳥。
女性の目を気にして、”赤い制服の白バイ隊員”という、”色白のマイケルジャクソン”(あわわ)のようなライダーを走らせないで、元気なおじいちゃん、おばあちゃんたちを起用したりすると、さらにグー。
もう、知事の再選は間違いありません。
それから、沿道で旗を振っている人たち。
あの人たちは、何で自分が旗を振っているのか、考えたことがあるのでしょうか?
中でも問題なのは、観客にまじって思いっきりコマーシャルの旗を振っている人たちです。
これは恥ずかしい。
きっと会社の命令でやっているのでしょうが、意外と嬉しそうにやっているところが、かえって恥ずかしい。
きっと家に帰って、
「おい、タカシ! 県立美術館のところで、父さんテレビに映ってたのわかったか? 黄色いジャンパー着て黄色い旗振ってたの。何だ、見てないのか。ビデオ録ってたろ、何チャンだっけ、ちょっと見せてみろ」
か、何か言ってるんでしょう。
あと気になるのが、何で車の前や横に「審議委員長」やら「大会委員長」やら「計時係」やら「初荷」といった布を貼りめぐらして、併走するのでしょうか?
いっそのこと、”布さえ貼れば誰でも併走可”というルールにして、「激安!!」「同時プリント3時間仕上げ」「無罪」「ライガー自爆」と、地元を代表するユニークでバラエティに富んだ面々に走ってもらっては、いかがなものでしょうか?
最後に、一番気になる不気味な存在が、選手と一緒に走っている人。
いきなり現れて500メートルくらい併走したかと思うと、いつの間にかリタイアしていたりします。
でも、よーく見ていると、さっきリタイアした人と同じ人が、また走ってたりします。
これは、濡れ衣を着せられてスポーツ界を追われた、かつての駅伝のエースが、自らの無実を晴らすために、無言の抵抗活動をしているのではないでしょうか?
ものが駅伝なだけに、「誰かの"たすき"が必要でしょう」ってことで、今回は許してもらえませんか?
じゃ!

教訓→駅伝を、あんまりバカにしちゃイカンガー(笑)


帰ってきた土曜日の実験室2
「お約束の怪」

(角川書店「ザ・スニーカー」96年4月号 960215執筆)

「じゃあ、8時にハチ公ね!」
これは”約束”である。
お呼びでない、こりゃまた失礼しましたっ!」
これは”お約束”である。
この場合の”お”には、丁寧の意味がまったくないところがポイントである。
ちなみに小畑(おばた)さんの”お”にも丁寧の意味はないので、自己紹介をする際に謙譲して、
「初めまして、ばたです」
とは絶対に言わない――はずである。
さて、”お約束”と言えば、ギャグの世界だけに存在するものだと思われていますが、ところがドッコイ(不可解な日本語)、”お約束の事故”なんていうものが結構起こるものです。

まず、「雑煮のもちをのどに詰まらせる老人」。
これほど悲しい風物詩もありません。
――老人が   おもちをのどに   つまらせる――
ちょっと長いのですが、最近では冬の『季語』としても定着しました。
彼らに「オレってヤッパ老人?ってカンジ」または「アタシとかって、最近チョー老人はいってるしー」という自覚があれば、未然に防げそうなものですが……。
ここはひとつ、おもち業者に『パチンコ玉』サイズの、いや『タピオカ』サイズのおもちを製造して販売してもらってはいかがでしょうか?
しかも、『梅しば』のようにひとつずつパッケージして。

それから「新歓コンパでアルコール中毒」。
これはニュースの後にアナウンサーが必ず、「悲しい春となってしまいました」と、締めることで有名です。
同様に「成人式帰りに飲酒運転で交通事故」も、同じ締め方をしますが、もう少し工夫が欲しいところです。
先日「銭湯の無料開放」という、むちゃくちゃ平和なニュースがありましたが、最後にアナウンサーが、
「どうぞ湯冷めなどなさらぬように、十分お気をつけください」
と、締めていたのには驚かされました。
『自動文章作成ソフト・お風呂編』じゃないんだから。
ここだけの話ですが、放送局には社外秘扱いで「アナウンサー締め方マニュアル」があって、たいていの事件・事故にはこれで対応できます。
今からちょうど8年ぐらい前にあった(その前は60年ぐらい起こらなかった)国民全体を巻き込んだ、ある悲しい出来事の前後に作成されたようです。
嘘です。

最後に「灯油とまちがえてガソリンを販売」。
これは常に「市役所の広報車が『注意してください!』とガナりながら町をねり歩く」というイベントとセットになっていることも、忘れてはいけません。
「あらヤダ! お塩とお砂糖まちがえちゃった!」
という『サザエさん』レベルの”お約束”と、どこか相通ずるものもあります。
もっとも、こっちはマスオさんが味噌汁を吹き出すか、タマが痙攣を起こして死んでしまう程度の笑い話で済みますが……。

「それにしてもご隠居、なんでこんな事件がいつも起こるんですかねぇ」
「そりゃあ、お前さん、モノがガソリンなだけに『レギュラー』になってるんだよ」


帰ってきた土曜日の実験室3
「おまけの怪」

(角川書店「ザ・スニーカー」96年6月号 960416執筆)

「ザ・スニーカー」誌の発売日が変更になりました。
おかげでヒドい目にあっています。
締め切り日がズレたために、前回の原稿を書き上げた直後にメモしておいた”爆笑ネタ”が、今読むとさっぱりわからないんです。
「3分間写真」――何のことでしょうか?
「フスマ」――どこがおかしいのでしょうか?
「オバQ」――ここまで来ると、もう"文字化け"したとしか思えません。
しかも、この3つのネタを組み合わせて"三題噺"にしようとしたのは、一体どこの誰なんでしょう?
どなたか心当たりのある読者の方は、「月刊カドカワ」編集部・池谷までご一報ください。
さあ君も、熱い思いをぶつけてみようぜ!

さて、気を取り直して、新ネタで行きます。
日本人は、”おまけ”が好きです。
それだけに、”おまけ”にダマされやすい!
まず、海外の免税品店。
とにかく、どんな商品を買っても、頼みもしないおまけが付いて来ます。
中でもゴージャスなのは、「ナポレオン」を買うと「ナポレオンバッグ」がもらえるという特典。
せめて「ナポレオン帽」がもらえるのであれば、”早野凡平マニア”が放っておかないのでしょうが・・・。
ちなみに「ナポレオンバッグ」も「シーバスリーガルバッグ」も「オールドパーバッグ」も、バッグそのものは「くらまえようちえん おえかきセット」と、何ら変わりありませんでした。

それから通販番組。
かつて、
「インスタントカメラを買うと、もれなくポケットカメラが付いてくる!」
という、キャッチコピーに驚かされましたが、ついさっき、
「お値段すえおきで、もう1台プレゼント! さらに、キャンペーン期間なら、もう1台プレゼント!」
という『洋服掛け』に、度肝をぬかれたところです。
しかも、1台に100着の洋服を掛けられますから、買ったら最後、クリーニング店かブティックを開店するしかありません!

さらに居酒屋の「突き出し」。
頼みもしないツマミを勝手に並べて、勘定までふんだくるんですから、これはもう一人前の詐欺です!
今は亡き桂歌丸(※校正者の方へ、これはギャグなので、エンピツで「まだ生きていますが」とは書かないでくださいね。)も、庶民を代表してこう言っています。
「サラリーマンに居酒屋 『突き出し』て居酒屋の勝ち」
最後に、本当にあった、こわい話をひとつ。
先日、有楽町の地下街で、
『ランチタイムサービス ほっけ3枚につき1枚おまけ』 と、書いてある店を見つけました。
さらに、その左にはこう書かれてありました。
『ランチタイムサービス ほっけ7枚につき3枚おまけ』 えっ、面白くないですか?
まあ、これはあくまで"おまけ"のネタですから。


帰ってきた土曜日の実験室4
「コワいものの怪」

(角川書店「ザ・スニーカー」96年8月号 960625執筆)

┌─────────────────────────────
「ラクダのグーグー」 
│ 
│ 夜中に目をさまして、ジョウはつぶやきます。
│ グーグーはどこに行っちゃったんだろう?
│ 長い睫、ふわふわした背中、暖かかった鼻息。
│ どれもが懐かしく、また哀しく思い出されるばかりです。
│ 哀しくて、哀しくて、もう二度と眠れなくなるのが怖くて、
│ ジョウは一所懸命目をつぶると、今度は声を出さないで、
│ 心の中でつぶやきます。
│ グーグーはきっと、すぐそばにいるんだ。
│ ぼくに見つけてもらうのを、ずっと待っているんだ。
│ ジョウの寝顔にキスをしながら、ママも心の中でつぶやきます。
│ かわいそうなジョウ。
│ あなたの大好きなグーグーは、こんなに近くにいるのに。
│ そして、やさしく毛布をかけ直します。
│ 真新しい、ラクダの毛布を――。

└─────────────────────────────

残暑きびしいザンショ。
新婚さんいらっしゃい」といえば、桂ザンショ。
天然記念物といえば、ザンショウウオ。
てなわけで、のっけから残暑ネタの3連発で井伏鱒二。
さて、インターネットの発達にともない、最近は「コワいもの」が細分化しているような気がしませんか?
個人的には、『ギターの弦』、『糸ノコの歯』、『ブレーカー』が苦手です。
いずれも"突然おそいかかって来た"ことがあります。 コワいので、多くは説明しませんが。――かえってコワいってば!
ところが世の中には、他人にはさっぱり分からない"妙なもの"をコワがる人が、結構いるものです。
子供のころの虎馬が原因でしょうか?――バカなワープロの辞書機能もコワいですが。

まず、Tさんの『ゴマ団子』。
「白いゴマをじっと見つめているうちに、ひとつひとつが動き出したら……」(つぶやきシロー風に読むこと。)
さすがにそこまで言われると、こっちまで気持ち悪くなってしまいます。
ちなみにこの人は、小さいツブツブがあるものすべてをこういう目で見てしまうそうで、イクラから、雷おこしから、ライスチョコの裏側(そんなとこまで確認するな!)あたりは全滅だそうです。
そのうちいつか、"自分の顔にも毛穴がある"ことを教えてあげたいと思います。

それからSさんの『トマトスライス』。
これも、丸のままや、ジュースはむしろ好きだというから、よくわかりません。
秋葉原デパートの、包丁の実演販売の途中に気絶している人を見かけたら、それがSさんです。
最後に、Nさんの『風船を持っている子供』。
風船そのものには、恐怖を感じないそうですが、いったん子供が持つと、むちゃくちゃコワくなるそうです。
あんまりコワくて、「いっそのこと、取り上げて割ってしまうぞ!」と思うそうですが、一般的には、よっぽどこの人の方がコワいです。

――ところで、来年「学校の怪談3」が上映されたらコワいですね。


帰ってきた土曜日の実験室5
「いいかげんの怪」

(角川書店「ザ・スニーカー」96年10月号 960821執筆)

夏バテのせいか、思うように筆が運びません。
もしや、才能が枯渇してしまったのでは!
枯渇に入らずんば虎児を得ず
枯渇孔明
今宵の枯渇は血に飢えている
静かな湖畔の森の陰から
「もう起きちゃいかが」と枯渇が鳴く
枯渇、枯渇、枯渇枯渇枯渇・・・
なーんだ、結構サエてるじゃん!

さて、季節の変わり目には必ず「暦の上ではすでに○○ですが・・・」という表現を用いますが、良く考えると変じゃありませんか?
暦そのものが、実際の季節より早く設定してあるんだから、暦の上では秋なのに暑かったり、春なのに寒かったりするのは当然です!
事程左様に(おっ、なんか言い回しにジジイ入ってるってカンジ?)日本的表現には、いいかげんなものが多すぎます。

まず「アサイチ」。
ウチの近所では、「浅草橋一丁目町会」のことですが、それ以外のほとんどの場合は「朝一番」を指します。
企業や商店では「営業が始まると同時」という意味でしょうが、これが編集者の手にかかると「午前中いっぱいまではOK」ということになり、もっとひどい"暗黒面の編集者"で、「『徹子の部屋』あたりまではセーフ」という、王様ゲームみたいなヤツもいました。
いつの間にか、王様と反対側のポジションに行ってしまったようですが。

それから「十人並み」。
これはウチの近所でも「平均値」という意味ですが、女の子のほとんどが、自分のことを「十人並み」だと思っているという現実がある以上、インド人の和菓子職人がつくった"栗かの子"よりも信用が置けません。
ちなみに"栗かの子"と言っても、女の子ではありません。
"田島ハル"と言っても、宮殿ではないように。 

あと「すぐ近く」。
ウチの近所では「バーバー今井からスナックQ」ぐらいまでの距離です。
「平成七年版 軍事白書」によると、完璧に東京人を装ったはずなのに、ふとしたはずみで六本木から渋谷を「すぐ近く」と言ってしまって正体がバレ、魔法でカエルだかロバだかナンシー関だかにされてしまう、地方出身者が、ここのところ後を断ちません。
余談ですが、ナンシー関の"関"は名字で、小錦関の"関"とは、よって立つところが違います。
逆に田舎で道を尋ねて「すぐ近くだべ」(どこの方言なんだ?)と言われた兵隊たちが、雪山を彷徨したあげくに命を落としてしまう悲劇が、戦時中にあったそうです。
「野麦峠」というタイトルで本になっているので、興味のある方は、ご一読下さい。
うそです。

そもそも「いいかげん」という言葉自体が「良い加減」って褒めてる感じがするし、「貴様」にしてもダブルで敬っている表現だし、「豆腐」に至っては納豆のことを指しているとしか思えません。
ああっ、何て日本語はいいかげんなんだ!
こんなに「清水の舞台から飛び降りた」つもりで「死にもの狂い」で「超弩級」の「抱腹絶倒」エッセイを書いているのに!!


帰ってきた土曜日の実験室6
「童謡」

(角川書店「ザ・スニーカー」96年12月号 961023執筆)

『森のくまさん』という歌があります。
1番から5番まで歌詞があります。
1番で少女は熊さんと出会って、2番で熊さんに追い返されるのですが――いやに唐突すぎやしませんか?
もしや、ここには”幻の2番”が存在していたのではないでしょうか?
おそらく、子供には刺激が強すぎる”幻の2番”が……。
少女は熊さんと恋におちる→お互いの世界の違いに気付く→約束、絆、そして裏切り→北方ハードボイルドの幕が開く→いや、開かない
てなわけで、今回は北方謙三の謎に迫ります。
違うって、”童謡”だって!

『花咲かじいさん』は、なんで灰を撒いているのでしょう?
あの灰は、たしか変わり果てたポチの姿のはずですが、……いや、ポチの亡きがらを埋めたところに生えた樹を燃やした灰でしたっけ?
いずれにしても、おじいさんは、すっかり心身のバランスをこわしてしまったようです。

バランスをこわしてしまったといえば、『クラリネットをこわしちゃった』も、いいアヤメです。
いや、カキツバタです。
そうじゃなくて、ショウブです。
この作品では、厳格な父親から賜ったクラリネットを、完膚無きまでに叩き壊してしまった少年の、見るも無残な慌てぶりが、皆の涙を誘います。
「パッキャマラノ パッキャマラノ パオパオパパパ オ パッキャマラノ パッキャマラノ パオパオパ……」――彼もまた、クラリネット同様に壊れてしまったようです。

それから『白ヤギと黒ヤギが文通する歌』(ぜったい違うタイトルだと思いますが、誰もちゃんとしたタイトルを知りません!)の、ヤギくんらも、わかっていながら同じミスを、半永久的に繰り返し続けるところが、”齊の河原の石積み”を連想しますね。
しませんよね。

さらに『桃太郎』。
伏線として、
1.村でしょっちゅう鬼が暴れている。
2.おじいさんとおばあさんには本当は子供がいたんだけれ ども鬼に殺されてしまったために、孤児であった桃太郎の身元引き受け人となり、鬼への復讐のために、彼を完璧な人間兵器に仕立てあげる。
とかなしに、いきなり鬼をやっつけて金品を奪って、めでたしじゃまずいでしょう。
このように、それぞれにドラマチックな生き様を見せてくれた各種の「○○太郎」軍団ですが、「金太郎」だけは、とてつもなく平凡な人生を過ごしたようです。
山奥で、動物相手に相撲をとり続けた一生。
都会人としては、ちょっと憧れちゃいますよね。
嘘です。

「ご隠居、今回はあのいつもの"なんとかの怪"じゃないんですかい?」
「なにを寝ぼけたことを言ってるんだい、おまえは。ちゃんと"怪"がついてるじゃないか」
「え、どこですか?」
「ほら、ここだ――最終”回”」
ご愛読ありがとうございました。

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